そっと支えるだけで「なんだか整う」——その感覚に理由がある
「ただ手を当てているだけに見えるのに、呼吸が深くなった」
「頭に軽く触れられているだけなのに、全身がふわっとゆるんだ感じがした」
そんな不思議な体験をされた方が多くいます。
この「支え圧」のアプローチは、一見すると何もしていないように見えますが、実は解剖学的にも、神経生理学的にも非常に繊細で理にかなった方法なのです。
“支え圧”はなぜ「わずかな圧」なのか?
頚椎の中でもとくにC2(頚椎2番)は、脳幹に近く、自律神経や感覚の中枢にも関連するデリケートな場所です。
そのため、強い圧や動きよりも、「やさしい接触」による安全情報の入力が、体にとって意味のある刺激になります。
C2の後面や後頭下筋群には、筋紡錘や固有受容器が豊富に存在し、わずかな触圧覚にすら反応します。
📌 補足:「低閾値機械受容器」とは?
「低閾値(ていいき)」=小さな刺激でも反応すること。
皮膚や筋膜、筋肉の表層にある感覚センサーで、ごく軽いタッチや圧力、皮膚の動きを感知します。
やさしいタッチはこれらの受容器を刺激し、「安全な刺激」として脳に伝わるため、自律神経がゆるみやすくなります。
特に皮膚や筋膜に存在する低閾値機械受容器(LTMR)は、過剰な力ではなく、あくまで「そっとしたタッチ」に高い感受性を示します。
支えることで“神経”が安心を受け取る
身体は常に「今、外界が安全かどうか」をセンサーで確認しています。
そっと手を添えることで、皮膚・筋膜・深部組織からの感覚入力が「これは安心だ」と脳に届き、自律神経系がゆるんでいくことがあります。
とくにC2は、迷走神経の上行線維や、脊髄視床路、小脳との接点も多く、そっと支える刺激が中枢系に影響する可能性があるのです。
このような安全情報(セーフティシグナル)は、体に備わる回復システムを自然に引き出す働きも担っていると考えられています。
Stillness(静けさ)がもたらす“内側の再統合”
支え圧の施術中、多くの方が「深い静けさ」を感じる瞬間があります。
これはオステオパシーの世界で「Stillness(スティルネス)」と呼ばれる状態で、神経系が過緊張から解放され、自律的な再統合モードに入ると考えられています。
何もしないように見える「ただ支える」行為が、実は中枢神経系にとって最も安心できる環境をつくっているのです。
この“動かない静けさ”が、身体の深い部分の回復力にスイッチを入れる役割を担っています。
体験例:「支えられた瞬間」に起きる変化
- 50代女性:「最初はただ頭を支えられてるだけかと思ったけど、気づいたら呼吸が深くなっていて、終わった後は体がふわっと軽くなっていました」
- 30代男性:「何もされてないようで不思議だったけど、頭を触れられていたとき、なぜか涙が出てきて…その夜は久しぶりに熟睡できました」
(※あくまで個人の体験です)
まとめ:支え圧は「内側の変化を促すタッチ」
支え圧は、外から何かを“直す”ための手技ではありません。
やさしいタッチによって、「安心」や「つながり」の感覚を届けることで、体の内側が自ら変化するための“きっかけ”を与える施術です。
解剖学的にも、神経生理学的にも、それはしっかりと裏づけのある行為。
「なにもしていないように見えること」の奥深さに、改めて気づいていただけたら嬉しいです。
次回予告
次回【第28回】では、C2が教えてくれたこと — やさしさが広がる“つながりのケア”へ をお届けします。